基本的な算定方法

エコロジカルフットプリントは、人間が必要とする需要をすべて満たすために、生物学的に生産でき、廃棄物を吸収できる面積がどれだけ必要かを算出するものです。需要には、食料生産、繊維生産、木材再生、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の吸収、インフラ建設などに必要な土地が含まれます。1か国の消費量は、その国の生産量に輸入量を加え、輸出量を差し引いて算出されています。

算出手順ですが、エコフットの3つの特徴を踏まえながら考えると理解しやすくなります。

     3つの特徴

  1. 環境負荷の「見える化」と「比較性」
    • 「見える化」 私たちの消費活動やそれに伴う廃棄(二酸化炭素)量を、生産可能な土地面積に変換する。
    • 「比較性」 算出した値は、国別(地域別)、異なる土地区分、時系列で「比較」できる。
  2.  6つの土地区分(耕作地、牧草地、森林地、漁場、二酸化炭素吸収地、生産能力阻害地)で算定
  3. 消費(責任)主義にたった指標

エコロジカルフットプリントでは、一次生産物(農地、森林、放牧地、漁業)の収穫量から、活動を支えるために必要な面積を算出します。

P/Ynの式で、私たちの消費活動を支えるために、どれだけの土地面積が必要か計算します。例えば、Pがある地域の二酸化炭素排出量(t)であれば、それを単位面積あたりの森林地が吸収できる二酸化炭素量(Yn)で割ることで、どれだけの土地面積が必要か算定します。この時の単位はヘクタールになります。ここまでが、1の「見える化」にあたります。

後半部分の係数(YF, EQF)で、ヘクタールのEF値がグローバル・ヘクタールへ「翻訳」されます。グローバル・ヘクタールとは「世界平均生産性を有する仮想的な土地面積」を表します。世界のGDPを比較する際、ドルが単位として用いられるように、EF分析ではこのグローバル・ヘクタールを単位として使用します。この単位により「比較性」が担保されることになります。

具体的には、YFは収量係数(Yield Factors)で、国別の土地生産性の差異を標準化させます。また、EQF(等価係数 Equivalence Factor)は、6つの土地カテゴリー別の生産能力の差異を、土地生産性の高さに応じてウェイト付けし、標準化させます。

この式を用いて、6つの土地区分の算定を進めます。実際の算定では、FAOやIEAなど国際機関の統計データをもとに国ごとのエコロジカル・フットプリント値をもとめます。

最後に、上記でもとめたEF値を、下記の式のもと、「消費(責任)主義」に整理されます。すべての商品には、それらを生産する国内外すべての土地や海域、また関連する廃棄物を吸収するために必要な土地を考慮に入れる必要があります。このような背景から、国際貿易の流れもエコロジカルフットプリントで検討する必要があります。

  • 報告書でエコロジカル・フットプリント値と書いてある場合、通常はEFcのことを指しています。
  • 環境分析では「消費主義(Consumer principle)」と「生産主義(Producer principle)」の2つのアプローチが考えられますが、エコロジカル・フットプリント分析は前者の主義にたった指標です。

             (出典:2010, WWFジャパン,「エコロジカル・フットプリント・レポート日本2009」

一方、バイオキャパシティは、現状の技術や管理方法を用いて、人間が利用する資源を供給し、廃棄物を吸収するために必要となる、生物学的に生産可能な陸地と水域の量を計算することで測定されます。バイオキャパシティを時空間で比較可能にするために、面積は生物生産性に比例して調整されます。この調整後の面積は「グローバル・ヘクタール」で表されます。国によって生態系の生産性に違いがあり、それらは会計簿の項目に反映されています。

この分析結果は、1か国の生態系への影響を明らかにすることができます。つまりフットプリントがバイオキャパシティより小さければ、その国は生態系の蓄え(債権)を保有したことになり、またフットプリントがバイオキャパシティを超えていれば、生態系の赤字(債務)を抱えていることになります。上記のような背景から、前者は「生態系の債権者(国)」、後者は「生態系の債務者(国)」と呼ばれることもあります。

今日、ほとんどの国、そして世界全体が生態系の赤字を抱えています。実際、現在、世界人口の 85% 以上が生態系の赤字を抱える国に住んでいます。世界のフットプリントが、世界のバイオキャパシティを超え、世界の生態系の赤字が生じることを、地球の生態系のオーバーシュートと呼んでいます。

国別フットプリント・バイオキャパシティ勘定

(NFA; National Footprint and Biocapacity Accounts)

世界各国のエコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティのデータは、「国別フットプリント・バイオキャパシティ勘定」(NFA)で提供されます。

NFAは、各国の自然資源の利用とその国の 資源生産量を算出したものです。、現在、200以上の国と地域のデータを、1961年以降から経年でまとめています。自然資源利用については、各国ごとに約15,000項目を分析しています。

NFAデータの管理は、カナダのヨーク大学とグローバル・フットプリント・ネットワークによって2019年に設立されたフットプリントデータ財団 (www.FoDaFo.org).が行っています。

国別フットプリントおよびバイオキャパシティ会計簿の計算は、食糧農業機関(FAO)、国連商品貿易統計データベース(UN Comtrade)、国連統計部(UNSD)、国際エネルギー機関(IEA)が発行したものなど、国連やその関連機関が提供するデータに基づいています。また、査読付き科学雑誌の研究やテーマ別の情報収集なども補足情報として使用しています。人口100万人以上の150か国を含む、国、領土、地域がこの“会計簿”の分析対象となっており、信頼性の高いデータを使用しています。

グローバル・フットプリント・ネットワークは、ほとんどの調査対象国のエコロジカルフットプリントとバイオキャパシティの両方の時系列データを提供しています。

算定方法に関する資料

エコロジカル・フットプリントの土地利用タイプ(耕作地、放牧地、漁場、森林地、二酸化炭素吸収地、生産能力阻害地)、バイオキャパシティの計算方法、生産効率調整のための収量係数、等価係数など、基本的な計算と原則については、「国別フットプリント&バイオキャパシティ2011年版」で解説されています。詳細な計算方法は、Ecological Indicators Journal(Vol.24: pages 518-533)に掲載されており、こちらからダウンロードできます。

国別フットプリント・バイオキャパシティ勘定2018年版」(2018)は、これまでの歩みを振り返り、最新の方法論とその効果を紹介しています。さらに誰でもアクセスできる形で公開しています。

「国別フットプリント・バイオキャパシティ勘定2019版ガイドブック(Guidebook to the National Footprint and Biocapacity Accounts 2019)」では、実施状況が示されています。

運用基準: Ecological Footprint Standards 2009

エコロジカル・フットプリントが一貫性をもって利用されることを目的として、「エコロジカル・フットプリント基準2009」(Ecological Footprint Standards 2009)で運用の基準を定めています。

「エコロジカル・フットプリント基準」は、使用するデータ、変換係数の算出、調査範囲の設定、調査結果の公開などの運用基準を設定することで、正確で透明性のある方法で評価が実施され、普及されることを狙いとしています。

この基準の作成にあたっては、学術機関、政府、NGO、コンサルティング会社の代表者からなる基準委員会が協議し、策定されています。

なお、基準作成の手順や考え方については、ISEAL(信頼できるサステナビリティ基準団体の連合)が定めた、倫理的な基準設定の手順に従って実施されています。

エコロジカル・フットプリントの質と整合性を高めるため、すべての人々が最新の「エコロジカル・フットプリント基準」を遵守するよう求めます。

方法論レビュー

基準委員会と国別フットプリント勘定諮問委員会の 2 つの委員会は、グローバル・フットプリント・ネットワークと協力し、国別フットプリント計算の科学的根拠と適用基準を管理しています。

また、グローバル・フットプリント・ネットワークは各国政府に対し、自国のフットプリントの見直しを支援しています。フットプリントの手法と結果の見直しをおこなった国は、スイス、日本、ドイツ、イギリス、欧州委員会、アラブ首長国連邦です。