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国連が2022年7月に発表した『持続可能な開発目標(SDGs)報告2022』によると、気候危機、新型コロナウイルス感染症のパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻により、貧困や飢餓に陥る人が増えています。また、食料・エネルギー・肥料の価格高騰によって国際貿易や金融市場が混乱するとともに、世界の食料安全保障と援助の流れが脅かされています。

一方、オーバーシュートの状態が半世紀以上も続き、生物多様性の大幅な減少、大気中の温室効果ガスの過剰な蓄積などが多く報告されています。その結果、異常気象、森林火災、干ばつ、洪水が多数発生し、人命や生活の基盤が失われています。あわせて食料やエネルギーをめぐる競争が激しくなっています。食料や木材など自然資源は国際貿易によって取引されており、世界市場に応じた価格で資源を購入できない国は、自然資源の不足という深刻な問題を抱えています。

世界人口の72パーセントは低所得と資源赤字の二重苦

エコロジカル・フットプリント分析で各国の所得とバイオキャパシティの制約を調べた結果、世界人口の72%に当たる人々は、所得が世界平均以下で、かつバイオキャパシティ赤字の国に住んでおり、その数は増えていることがわかりました(ワケナゲルら、2021)

(出典:Wackernagel,M.et al. 2021)

各国を、低所得・バイオキャパシティ黒字国(LR)、高所得・バイオキャパシティ黒字国(HR)、高所得・バイオキャパシティ赤字国(HD)、低所得・バイオキャパシティ赤字国(LD)の4つに分類したものが左図です。

横軸は、平均年間所得(1人当たり名目US$)で、2017年の世界平均の1人当たりGDP 10,380米ドルで区切り、高所得国と低所得国に区分します。縦軸は、各国のバイオキャパシティをエコロジカル・フットプリントと比較したときに、バイオキャパシティの余剰(+)または不足(-)を示し、余剰がある黒字国と不足している赤字国とに区分します。

低所得・バイオキャパシティ赤字国(LD)は、インド、ジンバブエなど世界人口の72%(2017年時点で54億人)を占めます。このとき世界のオーバーシュートは73%に達しています。一方、1980年にはLD国の人口は57%、オーバーシュートは19%でした。オーバーシュートが増えるとともに、バイオキャパシティが赤字で、不足分を海外から十分に購入する力をもたない国の人口が増えていることがわかります。オーバーシュートは自然資源が枯渇し、温暖化による異常気象が増えることを示しています。LD国で、森林や海洋資源が減り、干ばつや洪水などが発生すれば、自国での生産自体も不十分になり、海外から自然資源を十分調達できない購買力不足と重なって、貧困はさらに深刻化していきます。

日本7.8個分の消費

日本は、フランス、ドイツなどと同じで、高所得・バイオキャパシティ赤字国です。日本の暮らしは、自国のバイオキャパシティだけではまかなえず、経済力によって海外の自然資源を輸入して成り立っています。

国内のバイオキャパシティだけで日本の消費や廃棄吸収をまかなうとしたら、日本が7.8個必要になる計算です。G7のなかで、もっとも海外資源に依存しています(右図) 。

また、もし世界の人々が日本と同じ暮らしをしたら地球2.9個分になり、世界のオーバーシュートに影響を及ぼしています。

日本の暮らしを維持し、海外の貧困をなくすためは、日本の消費が海外の自然環境を悪化させず、また地域住民の収益につながることが求められます。また、日本のエコロジカル・フットプリント総量を減らすしくみをつくることも、まったなしの緊急課題です。

[参考資料]

※ヘッダーの図は、The importance of resource security for poverty eradicationから引用