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写真:Unsplash

2030年までの国家戦略決定 生物多様性を回復軌道へ 

生物多様性国家戦略2023-2030の概略図

日本政府は、2023年3月31日、新たな生物多様性国家戦略2023-2030を閣議決定しました。これは生物の多様性を保全し、持続可能な形で利用するための国の基本的な計画であり、生物多様性条約によって、すべての締約国に策定が求められています。日本は、1995年以降、国家戦略の策定と改定をおこない、今回が6次の計画となります。

ネイチャーポジティブの実現

世界の2030年目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を受けて、日本の国家戦略も2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるネイチャーポジティブの実現を目標に掲げています。その実現のために5つの基本戦略と、それぞれの状態目標(計15)と行動目標(計25)が設定されています。さらに、それぞれの目標の実行状況を測るための指標が示され、そのひとつにエコロジカル・フットプリントが挙げられています。

事業活動への働きかけ強化

新たな国家戦略の最大の特徴は、基本戦略のひとつに「ネイチャーポジティブ経済の実現」をおき、経済のしくみを見直し、事業活動が引き起こす環境への負荷を低減させる取り組みを強めることです。企業には生物多様性への依存度や影響を定量的に評価、現状分析、目標設定、情報開示を促します。また、金融機関や投資家には投融資の観点から生物多様性を保全し、回復するよう活動を進めていきます。また、基本戦略のなかには、健全な生態系を回復させるために陸域と海域で保護区30%以上とすることなどが設定されました。さらに、生物多様性の損失と気候危機の問題解決をつなげる施策が設定されています。

ロードマップを確実に実行へ

新たな生物多様性国家戦略は、従来の自然保全だけでなく、生産と消費のしくみを変えるための事業活動への働きかけを強めた点が評価されます。一方で、海外の自然資源に大きく依存している日本全体が引き起こす負荷をどこまでどのように削減することをめざすのか、具体的な目標設定や施策は十分とはいえません。これから大切なことは、目標を実現するために具体的な施策を実行することです。とくに事業者の活動が海外の生物多様性に負の影響を与えないよう、しくみや法制度づくりが目標実現のカギを握っています。短期的で物質的利益を重視する価値観ではなく、社会全体の持続可能性に価値をおく事業活動が求められています。

エコロジカル・フットプリントの役割

生物多様性国家戦略2023-2030で設定された目標にはそれぞれ指標が設定されています(状況目標の指標45個、行動目標の指標98個)。今後、これらは「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の共通指標と対応させながら、見直し、追加などがおこなわれます。そのなかで、エコロジカル・フットプリントは以下の状況目標の指標のひとつになっています。

基本戦略3-状態目標2

事業活動による生物多様性への負の影響の低減、正の影響の拡大、企業や金融機関の生物多様性関連リスクの低減、及び持続可能な生産形態を確保するための行動の推進が着実に進んでいる。

基本戦略4-状態目標2

消費行動において、生物多様性への配慮が行われている。

 

また、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」ではターゲット16(※)の指標のひとつにエコロジカル・フットプリントがあります。さまざまな場面で生じる環境への負荷を総合的に測るには包括的な指標であるエコロジカル・フットプリントが役立ちます。日本の消費行動を見直し、負荷を減らすにあたり、エコロジカル・フットプリントを継続的に測ることで活動の効果を知ることができます。

※ターゲット16:
すべての人々が母なる地球とうまく共生するために、支援政策及び立法的又は規制的な枠組みの確立、教育及び正確な関連情報や代替手段へのアクセスの改善によって、人々が持続可能な消費の選択を奨励され、行うことができるようにするとともに、2030 年までに、世界の食料廃棄の半減、過剰消費の大幅削減、廃棄物の発生の大幅削減などを通じて、消費のグローバルフットプリントを衡平な形で削減する。

昆明・モントリオール生物多様性枠組の概略図

参考:

G7広島サミット
ネットゼロとネイチャーポジティブ実現をコミット

2023年5月19~21日に広島市で開催された先進7ヵ国首脳会合(G7広島サミット)では、セッション「持続可能な世界に向けた共通の努力」のなかで気候・エネルギー・環境が議論されました。首脳たちは、世界のエネルギー市場が激変しても2050年までの温室効果ガスネットゼロ目標は揺るがないこと、さらに2022年12月に採択された生物多様性の世界目標「2030年までに生物多様性の損失を反転させるネイチャーポジティブの実現」への行動をあらためてコミットしました。

成果をまとめた文書(G7広島首脳コミュニケ)のなかの「環境」項目(22,23,24)には、生物多様性の保全策とともに、以下のような持続可能な生産と消費促進策がまとめられています。
・2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させることを実現
・経済と社会のシステムを、ネット・ゼロ、循環型、気候変動に強靭、汚染がない、ネイチャーポジティブな経済へ転換
・「G7ネイチャーポジティブ経済アライアンス」のような知識共有や情報ネットワーク構築などネイチャーポジティブ経済への移行促進
・サプライチェーンの循環性を高め、国内及び国際的な重要鉱物や原材料などの適正で、持続可能、効率的な回収やリサイクルの増加
・企業が漸進的に生物多様性への負の影響を削減し正の影響を増大させることを要求

ネットゼロでネイチャーポジティブな社会や経済を実現するために、日本でも持続可能な生産と消費の行動を具体的に実行することが求められています。