企業と自然の関係を可視化する――
アルプスアルパイン株式会社のビジネスフットプリント算定
アルプスアルパイン株式会社は、事業活動と自然資本の関係をより深く理解するため、「ビジネスフットプリント算定の取組み」を実施しました。算定は、Global Footprint Network(GFN)が策定する国際標準手法に基づき、エコロジカル・フットプリント・ジャパン(EFJ)が技術支援を担当しました。
本取組みの成果は、アルプスアルパイン株式会社公式サイトで公開されています。
■ 背景と取組みの目的:国家戦略と自然循環の視点
2023年に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023–2030」では、エコロジカル・フットプリント(EF)が生態系サービスの健全性を評価する主要指標の一つとして位置づけられました。これを契機に、日本国内でも企業によるビジネスフットプリント算定の取組みが広がりつつあります。
その中で、アルプスアルパイン株式会社は、EFの持つ「環境負荷の見える化」をさらに一歩進め、自然との循環関係そのものを捉えることを目指しました。CO₂排出量だけでなく、資源・土地・水など、多様な自然の働きを包括的に捉えることで、企業活動がどのように自然の再生力に支えられているのかを明らかにしようとしたのです。
本取組みでは、現場の理解と国際基準の知見を融合させた分析設計を採用。アルプスアルパイン株式会社の担当者との綿密な対話を重ねながら算定を進め、「自然との循環」というEFの本質を企業経営の意思決定へどう接続するかを探求しました。
対話を通じて生まれた共創型のプロセスは、本取組みの大きな特長となっています。
■ 本取組みの3つの意義
- 国際標準に基づく透明性ある算定
GFNが策定する世界共通の算定基準を用い、企業活動と生態系サービスの関係を定量的に把握。 - 自然循環の視点を重視した分析
環境負荷を「数値」ではなく「関係」として捉え、企業と自然の健全なつながりを再設計する思考を提供。 - 情報開示による共感と信頼の形成
算定結果を公式サイトで公開し、持続可能な経営姿勢を社会へ明確に発信。
■ 算定結果:自然循環を「見える地図」に
本取組みでは、原材料調達から製造・輸送・使用・廃棄に至るまでの各工程について、環境負荷インベントリーデータを整理し、Global Footprint Network(GFN)が提唱する国際標準手法に基づくエコフット係数で分析しました。各工程が耕作地・漁場・森林地など、どの生態系サービスにどの程度依存しているかを可視化し、企業活動と自然のつながりを「見える地図」として描き出しています。
エコフット係数は、GFNの National Footprint & Biocapacity Accounts(NFBA) を基盤に、国内外の知見を反映して再構築。国際的な一貫性を保ちながら、アルプスアルパイン株式会社の実態に即した分析を可能にしました。
分析の結果、原材料調達段階の影響が最も大きく、特に森林などのCO₂吸収地への依存が大きいことが明らかになりました。この結果は、企業活動が森林生態系の吸収・循環機能という自然の再生力に深く支えられていることを示しています。
サンキーグラフ(単位%)
※分析手法および結果の詳細は、アルプスアルパイン株式会社公式サイト をご覧ください。
■ 自然の再生力とともに歩む経営へ:取組みが示す方向性
アルプスアルパイン株式会社は、今回の算定結果を踏まえ、以下の方針を公式に示しています。
「自然資本の健全性を維持・回復することは、企業の持続可能性の観点からも不可欠であり、当社においても自然資本を自然の再生可能な範囲内で持続的に利用すべきと考え、2050年度までに自然の再生能力と調和した企業活動の実現を目指します。」― アルプスアルパイン株式会社 公式サイトより
この方針は、同社の企業理念
「アルプスアルパインは人と地球に喜ばれる新たな価値を創造します。」
とも通じるものです。
EFJとしては、今回の算定が、自然資本と調和した価値創造を検討するうえで重要な視点を提供するものと考えています。算定から得られた示唆は、環境負荷を評価する指標を越え、企業活動と自然資本の関係を理解するための共通基盤として活用できます。
こうした基盤は、アルプスアルパイン株式会社に限らず、日本の多くの企業が自然資本との向き合い方を再考し、新たな価値創造へ踏み出す際の手がかりとなることが期待されます。
■ ビジネスフットプリントに関心のある方へ
エコロジカル・フットプリント・ジャパン(EFJ)は、国際標準(Global Footprint Network手法)に基づき、企業・自治体のビジネスフットプリント算定・分析を支援しています。国内外の事例と、自然循環の視点から得られた知見をもとに、経営や政策の意思決定に資する支援を提供しています。
詳しくは [ビジネスフットプリント紹介ページへ]