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写真:Unsplash

図 自然の4つの領域

(source: Recommendations of the Taskforce on Nature-related Financial Disclosures, 2023)

2030年までの世界目標ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること) を実現するには、「持続可能な生産と消費」への変革が強く求められています。そのために社会経済のしくみを変える必要があり、TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosure; 自然関連財務情報開示タスクフォース)など、金融の流れを取り入れる対策が世界の潮流となっています。エコロジカル・フットプリント(以下、エコフット)もまた持続可能な生産と消費を測り、経済のしくみ変革を支援するものとして利用されています。

ネイチャーポジティブの背景にあるエコフット分析

地球の能力の範囲内での消費へ

前回の2020年目標(愛知ターゲット)のひとつに目標4「持続可能な生産と消費」があり、要素のひとつに、地球の安全な範囲内での自然資源利用がありました。2020年に発表された報告書では、残念ながら目標は達成できなかったことが報告されました。その根拠としてエコフットの傾向(下図)が取り上げられ、人間の自然資源利用は地球の再生能力を超え続けていることが各国の共通理解となりました。

図 エコロジカル・フットプリントの傾向
(出典:生物多様性事務局,2020,『地球規模生物多様性概況第5版』)

経済学の転換点

経済学と自然資源の関係を示した提言書「生物多様性の経済学(ダスグプタレビュー)」(2021,英国財務省)は、主流経済学が自然資源を取り入れた点で、経済学のコペルニクス的転回と言われています。提言のポイントは次の3点です。

  1. 人間の需要が地球の供給能力を上回らない
  2. 経済的成功の基準を変化させる
  3. 金融と教育のシステムを変革する

1.人間の需要が地球の供給能力を上回らない、ことの説明にエコフット分析が紹介され、人間の利用(需要)と地球の生産(供給)のギャップが拡大傾向にある問題を指摘しています。

このレビューは、2021年のG7サミットで採択された「2030自然協約」に取り入れられ、さらに2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組につながったとみられています。

図 インパクト不均等
(出典:ダスグプタ, 2021,『生物多様性の経済学 要約版』

持続可能な生産と消費のためのターゲット15,16

さまざまな研究や分析の結果、ネイチャーポジティブ実現には、保全活動だけでなく「持続可能な生産と消費」の取り組みが不可欠であるとの理解が深まり、取り組みが始まっています。具体的には、昆明・モントリオール生物多様性国際枠組のターゲット15「ビジネスの情報開示」が設定され、 TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosure; 自然関連財務情報開示タスクフォース)が推奨されています。また、、ターゲット16「消費のグローバルフットプリント削減」では補完指標のひとつにエコフットが挙げられています。

TNFDとエコフットの関係

自然とのかかわりの情報開示を求めるTNFD

TNFDは、ビジネスが自然との係わりを理解し、依存、影響などについて評価、情報を開示するためのしくみです。企業が開示する情報にもとづいて資金の流れを変えることをめざしており、先行する気候変動の情報開示タスクフォース(TCFD)の考え方に沿っています。2023年9月にTNFD (自然関連財務情報開示タスクフォース)最終版が発表されました。TNFD開示提言の本文冒頭には、「私たちの社会、経済、金融システムは自然の中に組み込まれているのであって、自然の外部にあるのではない。」というダスグプタレビューの一文が引用されています。

何を― TNFDは企業の情報開示について4つの柱(「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「指標と目標」)と14の項目の開示を提言しています。

どのように― TNFDでは企業が情報を開示する手順としてLEAP手法が推奨されています。事業者が直接かかわっているものはもちろんのこと、サプライチェーンの上流や下流も対象であることが推奨されています。

  • Locate (発見する):
  • Evaluate (診断する):
  • Assess (評価する):
  • Prepare (準備する):

エコフットはTNFDのどこにつながっているか

ビジネスのエコフット分析は以下の点でTNFDの目的や考え方に沿ったものとなっています。

  • 生産プロセスごとに利用量を測り、利用する生態系サービスを6つの土地に分類して測定、自然にどのように依存しているかを特定できる。
  • 自然資源とCO2排出量との両方を同時に測定し、自然と気候の影響を統合的に示すことができる。
  • サプライチェーンの上流と下流も算定、海外での生産活動や消費者の利用状況の改善にもつながる。
  • 自然にかける負荷を減らすことがリスク対策となり、コミュニケーションツールとしてわかりやすい。
  • 環境経済学のベースとなる考え方と国際的な指標としての信用性があり、海外でも理解されやすい。

エコフット算定はLEAPアプローチにも使用可能

エコフット算定はLEAPの16項目のうちの一部に沿ったものと考えます(下図)。ビジネスフットプリント算定には、まず、事業活動がどのような自然資源をどれくらい利用しているか調べ、データを集め、負荷を数値化します。それはLEAPの主にLocate, Evaluateの段階にあたります。次に、エコフット算定した数値から対応策を検討し、削減目標の数値と具体策を設定します。これはLEAPのAssesとPrepareに該当します。一方で、LEAPには、エコフットでは対象としないものや考え方などがあり、ENCOREなど他のツールなどとも組み合わせて実施することが大切です。

国内の多くの企業は、国際的な動きや金融の流れを受けて、自然に関する情報開示の進め方や方法を検討しています。2030年まであと7年と時間的余裕はなく、少しでも早く実行することが必要です。どの手法や指標を使うかより、どのように自然への影響を低減していくかに時間とエネルギーをかけることが大切です。企業は、まず自社の活動が自然にどのような負荷を与えていたのか、どうやって負荷を減らすのか、行動することが求められています。それが同時にリスク対策でありビジネスチャンスとなります。